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『この国の空』


太平洋戦争末期の東京で暮らす一人の女性が、少女から大人になっていく様が、
精緻な市井の暮らしぶりと共に描かれている作品です。

戦争に影響を受けた人々の人生を描いた作品は、浅田次郎作品を、
しばしば読みますが、市井の人々の暮らしを精緻に描いている作品は、
初めて読んだ気がします。
自宅の庭を畑にしトマトなど野菜を栽培しているところで、
畑の土に家の下肥を自分で撒く様は、主人公が女性であるだけに、
情景ばかりか、その時代の匂い空気を震わせてながら伝わってきそうです。

主人公”里子”の心情が細密に、しかし誇張、虚飾されずに描かれており、
人間としての成長と共に女性としての心情の揺らぎを感じることができます。

20歳の女性と妻子が疎開して一人で暮らしている隣人の
38歳の男性の間に生まれた恋。戦争が終わり、二人の関
係はどうなるのか?そこは描かれずに終わっています。
「この国の空」を見上げるように様々な思いを馳せるだけです。

昭和58年作品。谷崎潤一郎賞受賞

この本は、リサイクル本の店を回っていて、偶然出逢って手にした一冊です。
いい作品に出逢えたと思っています。
31年ほど前の作品ですが、戦時下を描いた作品であることも影響していると思いますが、
作品に劣化を全く感じませんでした。

おわり

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『言ってはいけない 残酷すぎる真実』



犯罪者に遺伝は影響があるのか?
知能に人種による差はあるのか?
データが何らかの因果関係を示すと、私たちは眉をひそめたくなる事がある。
声高に話すことが憚られる事を、
「言ってはいけない残酷すぎる真実」と説明しています。
美醜による人生の格差は、データで証明されている。
人種による成功や知能に格差があることも。
犯罪を犯した人の遺伝子は、受け継がれていることも。
なんとなくそうだと思っていても、あるいは、巷間言われていることも、
なかなか公然と報道されたりすることはない。
そういったことが、社会にはたくさんある。
客観的なデータがありながら、事実として語らず覆ってしまうのは、
表現の自由の観点からも間違いだとというのが、著者の出版主旨です。

著者の執筆の動機は、次のことだとあとがきされています。
2015年1月7日、フランスの風刺雑誌『シャルリー・エブド』の編集部が、イスラム過激派の武装集団に襲撃され、
編集スタッフや警官など12人が犠牲になった。この
事件を受けて、日本を代表するリベラルな新聞社は、「テロは言語道断だが下品な風刺画を載せた方も問題だ」として、
「ひとが嫌がるようなことをする表現の自由はない」と宣言した。本書の企画を思いついたのは、
この驚くべき主張を目にしたからだ。不愉快なものにこそ語るべき価値があると考えている。

以前、ゴアアメリカ副大統領が「不都合の真実」を問いかけて話題になりました。
事柄が、我々人類の将来の存亡にかかわることなので、公にされた事実は、
権益を持つ人たちには不都合だったが差別や人権侵害とは距離のあるものでした。

現代の進化論が突きつける不愉快な真実は、
歪んだ理性を暴走させないための安全装置なのだと。

究極は私たちがこれらの歪んだ真実を、
寛容で受け止められるかだと感じました。

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『土の中の子供』



虐待の末、埋め殺される経験を持つ「私」の話。
内容の重大さに比べて、文庫本の帯に巻かれている
「この本はヤバすぎる!」という言葉は、あまりに稚拙に感じる
「ヤバイ」という言葉の持つ意味の時の流れに伴う変化は、
それなりに知っているつもりですが、、、、。
文学的に素晴らしいとか、考えさせられるとか、
人間の内省的な面を抉り出しているとか、そういった評価を表現しているのか?
ちょっと「ヤバイ」では、内容と不釣り合いな言葉だと感じました。
短絡的に、危険だとか、重たいとかといった意味かな?
それとも、今様だと解釈すると「すごい」「素晴らしい」ということかな?
やはり、どちらも当てはまっていない気がする。

私がこの文庫本の帯を考える担当者ならなんとつけるだろうか?
「暗然たる再生」「黒の中の恐怖」とかかな?いい言葉思いつかなけど、
”ヤバい”とか”すごい”という質の言葉では、捉えられない深層的で輻輳した心情が
描かれている。
暴力、虐待、孤児、犯罪、恐怖、SEX、死、殺人、狂気、不条理、これらの非日常世界の感覚の中で、
人が何を感じ、どう考え、己を認識するのか?
それは、真実の自分か?本質的なものなのか?

人の心の深部を抉り取るような文章は、他の作家ではあまり読むことがありません。
過激な描写という点では、村上龍の小説に似ている感覚も受けますが、
自らも知らない深部に入り込む感じは、やはり中村文則氏独特だと思います。
救われた感覚は得られないし、すっきり感も全くない、
どちらかといえば暗らく辛い内容です。
私たちの普段の生活で、心の深部に切り込んで考えるような体験をすることはありません。
身近な人の予期せぬ死とか病気、大きな喪失を味わった時など
いずれも非日常に身を置くときに心に割れ目が入って、
深部にあるものが覗き見れるような気がします。
普段の暮らしの中で出くわす些細なことに一つ一つ丁寧に向かい合うことが、
凡人にできる精一杯のことのような気もします。

おわり

私たちは本質とは、そこにあるのか?

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本を読む人だけが手にするもの


情報処理能力ではなく、情報編集能力を必要とされる時代である。
この情報編集力は、唯一の正解があるわけではない問いに対し、”納得解”を、
導き出せる能力ということです。20世紀の成長社会から、
21世紀は成熟社会へ移行していくため、納得解を導き出せる「ジグソーパズル型」から「レゴブロック型」
の人間が求められていると著者は述べています。

この本を手にして、「読書って、価値があるんだな。よし、本読もう!」という
気持ちになる方もいらっしゃると思います。それが、この本の狙いとするところ
だろうとは思います。しかしながら視点を変えてみれば、読書家の読書家のための
エンカレッジ本(読書家を勇気づけ、そうそう、本読むって、素晴らしいことだね)
のような気がします。読書家が、この本を読むと、ほんとに心地よくなります。
多様な分野の本を読むことで、考え方に幅が出てきて、質の高い思考と判断が
できるようになることは、今さら論を待つところでもないと思います。
ただ、小説は、その作家の価値観や世界観が反映されているので、
どうしても好きな作家の作品に偏ってしまいます。それは、仕方ないですね。

本書で紹介されている数々の書籍が気になって、読んでみたくなってきます。
『ピーターの法則』『天才』『オールド・テロリスト』『手紙屋』『脳と創造性』

終わり

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『心が折れる職場』


とても共感できる内容でした。表面的なメンタルヘルス対策を否定されています。
上司がまず先に、自己開示行わないと部下は心を開かず、信頼関係は生まれない。
一方的に部下のメンタル不調原因を聞き出そうとしても、心の扉は開かれない。
確かにそうだと感じます。相手のことに耳を傾けますと一方的に宣言しても、
なかなか本音は出てこないですね。
それに、自己開示すること自体が、自分自身の成長につながるとことは、
”ジョハリの窓”理論からも裏付けられています。

また、管理職に知識付与的な面だけのメンタルヘルス研修をするほど、
心が折れる部下が増えるとも指摘しています。画一的でデリカシーの欠けた
対処方法に走ってしまうということです。

私は、かつてお世話になった上司から、
「人の上司になるということは、その人の人生に影響を及ぼすことになる。
 その気概を持って務めなさい」と言われました。
そこまで、関わりを持ちたくないと思う人も最近は、
上司側にも部下側にも増えていると思いますが、
この言葉は、決して忘れてはならないものだと思っています。

おわり

同じ著者の「劣化するシニア社員」という本が気になる。

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プロフィール

トホトホWALKER

Author:トホトホWALKER
性別 男性(家族有)

職業 サラリーマン
居住地 西日本の地方都市

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