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『沙高樓綺譚』


2016年、29冊目です。

浅田次郎の短篇集です。
この人の短編策には、どれも”力”が感じ取れます。
何かで本人が、短編を書くのと長編を書くのでは頭の使う筋肉が違うと話されていました。
私にとっては、どちらも魅力的な作品に思えますが、短編のほうが一気に読み切れることが多いので、
心への印影が強くなるような気がします。
沙高樓綺譚』は、各界の名士たちが集う「沙高楼」で、世の高みに登りつめた人々が、
ミステリアスな女装の主人に誘われ、秘密を披露しあうという設定です。
5つの綺譚が語られます。
1.「小鍛冶」(語り手:刀剣鑑定の家元)
2.「糸電話」(語り手:精神科医)
3.「立花新兵衛只今罷越候」(語り手:映画キャメラマン)
4.「百年の庭」(語り手:山荘の庭師)
5.「雨の夜の刺客」(語り手:やくざの大親分)

「立花新兵衛只今罷越候」は、幕末の志士がタイムスリップして映画撮影現場に、
エキストラとして現れれるという話ですが、この短篇集の中ではある意味、最も心軽く読み通せる作品です。
「百年の庭」と「雨の夜の刺客」は、人の死がストーリーの中で大きな意味を持ちます。
「小鍛冶」と「糸電話」は、人の怨念や怨讐というものを感じますが、
「糸電話」のほうは、女性が主人公な分だけ、それが増幅されて伝わってきます。
「雨の夜の刺客」は、悪として生きる人間は、ほかの人と決定的に心底異なる価値観を持っているわけではない。
1つのボタンの掛け違いで、その運命の流れを大きくねじまげられ、その力に巻き込まれていく様が描かれています。

おわり

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tag : 浅田次郎 沙高樓綺譚

『日輪の遺産』


2016年、20冊目です。

浅田次郎の初期の長編小説です。
秀逸な作品だと思います。
太平洋戦争末期のポツダム宣言受諾の時期から始まる物語が、
長い歳を経て、戦争経験の無い世代の人間と接点を持ちます。
2つの時間軸で物語が展開していきます。

日本を再興させるための軍の財産を山の中に隠すために動員された
女子学生たちの姿と彼女らとその後の日本の両方を憂う人間たちの苦悩が描かれています。
彼らの残したものを知ることになった2人の戦後生まれの男たちは、
それぞれが抱える問題の中でやはり苦悩しています。
2人自身の再興のとも交わりながら物語は進んでいきます。
少し長い小説でしたが、ストーリーにも興味を失わず読み切ることができました。

追記
私は観たことはありませんが、この作品は、映画になっているようです。
基本、小説の映像化されたものは見ません。
作家の意図とは違う、映像製作者の意図がそこに加わってくるので、
自分で原作を読んで、感じることでいいと考えています。

おわり

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『霧笛荘夜話』



2016年、13冊目です。

浅田次郎の短編集です。
というより連作といった方がいいと思います。
港町の運河の辺にある古ぼけたアパート「霧笛荘」を舞台にして、
部屋を借りに来た人間に、管理人の老婆が一部屋ずつかつての住人のことを
語るという構成になっています。
管理人の部屋も含め7つの部屋について、7つの物語が紡がれています。

安っぽい言葉でいうなら、社会からはじき出されながらも、市井に暮らし、
それでいて、自分の中にある矜持を微かに持ち続けて生きている人々の様を、
慈しむような眼差しで描いているという感じです。

第4話 瑠璃色の部屋
北海道からプロギターリストを目指して上京した主人公”四朗”と、それに反対する家族から自分を東京にこっそり
送り出してくれた足の悪い姉との、心の中のきれいで柔らかいところでのふれあいが、
美しく描かれていて心打たれます。

また、戦後と軍隊の話を交えて小説が書けるのは、浅田次郎をおいて他にいないことも改めて感じました。
第六話マドロスの部屋では、引き揚げてきた特攻隊員と出撃前に書いた遺書がその後の人生を暗転させます。

これぞ、浅田作品とうならせる連絡短編でした。

これも、入院中に読了しました。

おわり

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夕映え天使 (新潮文庫)

夕映え天使 (新潮文庫)夕映え天使 (新潮文庫)
(2011/06/26)
浅田次郎

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2015年の5冊目です。
2,3日、風邪を引いて臥せっていたので、この本を読んでいました。
私の好きな作家の一人である浅田次郎の短篇集です。
表題作「夕映え天使」のほか、「切符」「琥珀」「特別な一日」「丘の上の白い家」「樹海の人」の6篇が収められています。
人とはこうあるべきといった主張や何かを問いかけるといった作風ではないのですが、読み始めると没入してしまいます。
敢えて言うなら一つ一つの作品に「匂い」があるという感じがします。
一方で他の好きな作家である小川洋子や角田光代の作品には、「匂い」よりも透明に近い「色彩」を感じます。
極めて抽象的な感想でした。
この短篇集の中では、「琥珀」という作品に優しさと哀しみを感じます。定年を前に一人旅にでた刑事が、
雪吹雪く北の街でふと入った喫茶店でコーヒーを入れている男は、時効間際の殺人犯。
僅かな時間の二人の会話は、互いを探り合う言葉から、心情の吐露へと続いて行きます。
重いものを背負いながら違う道を歩いてきた二人の人生が交錯し、
一瞬にして互いの人生の哀しみを理解し合う。
刑事の取った行動は、人生最大の大手柄となっていきます。

おわり

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鉄道員(ぽっぽや) (集英社文庫)

鉄道員(ぽっぽや) (集英社文庫)鉄道員(ぽっぽや) (集英社文庫)
(2000/03/17)
浅田 次郎

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2014年の54冊目です。
直木賞受賞「鉄道員(ぽっぽや)」「ラブ・レター」「悪魔」「角筈にて」「伽羅」「うらぼんえ」「ろくでなしのサンタ」
「オリヲン座からの招待状」の八つの短編からなる一冊です。1997年刊行。

「鉄道員(ぽっぽや)」を読んで
高倉健さん主演の映画のイメージが強くある表題作「鉄道員(ぽっぽや)」。
読み始める前は、この作品は、長編作品だと思っていました。
俳優高倉健さんの重厚感が作品へのイメージを先行して形づくっていたようです。実際は短編作品でした。
主人公の幌舞駅長の乙松に私が感じたイメージと高倉健さんへのイメージには隔たりがありました。
しかしながらその読み始めた時に感じたGapは、次第になくなり、小説の中の乙松の不器用な生き方に、
共感を感じ始めました。この不器用さが高倉健さんの演技で完璧に表現されているんだろうと思いました。
(繰り返しですが映画は見たことありません。)

他の作品で心を引きつかれたのは、「ラブ・レター」です。
中国人女性が日本で働くため、会ったことも無い男性と偽装結婚をします。
その戸籍を貸す男の心情を描いたものです。高野吾郎は歌舞伎町の裏ビデオ屋の雇われ店長。
歌舞伎町で20年メシを食ってる男。足を洗おうと思いながらもこの世界での生活を続けている。
親しいやくざに頼まれて出稼ぎ外国人の女の偽装結婚相手として自分の戸籍を50万円で貸していた。
その女が病気で死に遺体を引き取りに行くことになった。その時が彼女との初めての対面だった。
冷たい霊安室で。中国から来たその女の名前は康白蘭。
偽装結婚して高野白蘭となっていた彼女は、死の間際に、吾郎に手紙を書き残していました。

高野吾郎さんへ
「昨日の夜、急にお腹が痛くなって、救急車で病院来ました。・・・
とても悪いようなので、中国の家と吾郎さんに手紙を出すことにしました。・・
明日はもう書けないと思います。結婚ありがとうございました。謝謝。
吾郎さんと結婚してたので入管にも警察に行きませんでした。ずっと働きました。
組の人もお客さんもみんなやさしいです。ずっとここで働きたいです。
謝謝。それだけ。海の音きこえます。吾郎さん聞こえますか。
みんなやさしいけど、吾郎さんがいちばんやさしいです。
わたしと結婚してくれたから。謝謝。多謝。おやすみなさい。 
白蘭。」

そしてもう一通の最後の手紙
「大好きな吾郎さんへ。誰も来ないうちに、こっそり手紙書いています。私きっと死にます。・・写真いつも持っています。
毎日忘れないように見ているうちに吾郎さんのこと大好きになりました。好きになると、仕事つらくなります。
仕事の前にいつもごめんなさいといいます。しかたないけど、ごめんなさいです。がんばって仕事してお金返したら、
吾郎さんと会えますか、吾郎さんといっしょにくらせますか。
そう思って一生けんめいしごとしました。でも、もうだめです。・・・・
吾郎さんにあげられるもの、何もなくてごめんなさい。だから言葉だけ、きたない字でごめんなさい。
心から愛してます世界中の誰よりも。吾郎さん。再見。さようなら。」
これ以上書こうとする涙がとめどなく流れて止まらない。
彼女の最後のお願いは、死んだら吾郎さんのお墓に入れてほしい。
吾郎さんのお嫁さんのままで死んでもいいですか。でした。
こんな切なく涙が止まらなくなる「ラブ・レター」なんて読んだことありません。
この文章書くために作品を読み返しましたが涙が止まりません。
この作品も映画化されたり、テレビドラマ化されています。幸いにも私は見たことがありません。
これからも絶対に見ないでいようと思います。私だけのラブ・レターとしてしまっておきたいと思います。

この2作品以外にも「角筈にて」などにも共通しているのは、
どんな人間にも僅かにだが「矜持」というものがあるということ。そいつは人を強くもし涙もろくもするようだ。

おわり
プロフィール

トホトホWALKER

Author:トホトホWALKER
性別 男性(家族有)

職業 サラリーマン
居住地 西日本の地方都市

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