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『五分後の世界』を読んで



著者自身が、最高傑作と語る小説です。
五分後の世界に迷い込んだ主人公が、戦士として生きていく。
大胆な想像で未来の日本を、そこで生きている日本人を描いている。

第2次世界大戦で日本が降伏しなかったら、どうなっていたのかが、
話の原点となっています。生き延びた日本人はわずか数十万になり、
地下都市を作り、国家を樹立している。日本を守る”戦士”たちが尊敬される社会です。
主人公は、現代の日本社会では、どちらかといえばはじき出された立場で生きている存在。
物語の最後で、彼は”五分後の世界”で、戦士として生きることを決意します。
”五分後の世界”で初めて自尊心を満たされ、存在を確信できたのだと感じました。

戦闘シーンは、村上龍らしい凄くリアルな描写です。
様々な資料を基に描かれています。当然、私もその現実を経験したことはありませんが、
そのシーンを読み進んでいるときは、やはり心臓の鼓動が早くなる気がします。
かつては、「コインロッカーベービーズ」などの暴力的な描写シーンに、
辟易としたものですが、慣れたせいなのか?年をとったせいなのかな?

おわり
(2016年に読んだ34冊目でした)

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『おしゃれと無縁に生きる』


2015年の57冊目です。

村上龍の有料メールマガジンの記事をまとめたエッセイ的な本です。
彼の小説の過激さとエッセイの内容には、いつもギャップがあります。
現実をシニカルに洞察していると言えるかもしれない。
彼の最近のキーワードは「死なないこと」だ。
現在の日本において、若者にとって「死なないこと」、それがすべてだと。
諦念の境地からの彼の呟きのようにも聞こえる。
また彼は、お金で幸福は買えるかというテーマの中で、こう書いている。
「世界中が敵に回っても、あの人だけはわたしを理解し、
わたしの側に立ってくれるだろう」というような信頼は、金銭からは生まれようがない。
青二才の青年が口にすると、心細い叫びにしか聞こえないが、
あの「コインロッカー・ベイビーズ」を書いた村上龍が、
今、言っているということに、肚落ち感があります。

おわり

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『逃げる中高年、欲望のない若者たち』


2015年の31冊目です。

欲望が無く怒らない若者に対し、手厳しかった村上龍も、
うつや引きこもりや自殺するよりも、閉塞的で希望は無い草食的生き方の方がましだと書いている。
彼自身が年を取って丸くなったことが理由でなく、考える優先順位が変わっただけだとしている。
そうは言っても、これからの時代に、若者が期待が持てないことに対しての諦念が強く感じられる。

逃げる中高年といわれると、自分を名指しされたようで後ろめたさを感じるのは、人生逃げ腰になっている証拠かな?
私自身は、彼の相変わらずシニカルな見方が嫌いではない。
いろんなことを包含するような表現より、事の核心にある事を抉り出そうとする考えや表現に共感を覚えます。
私自身の中を抉り出すことはできないが、今までいろんなことが、”包む込まれたまま”同一に論じてきた気がします。
彼の主張には、若者は、”こう生きてほしい”といった具体的な要望はありません。
人生、単線的な聞き方以外にも多くの複線的な生き方があることを、「13歳のハローワーク」の新刊で紹介している。
多くの若者の生き方やあり様が画一的で、個性を失っていること、
言い換えれば輝く原石が見当たらないという嘆きのように思えます。

おわり

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『55歳からのハローライフ』

55歳からのハローライフ55歳からのハローライフ
(2012/12/05)
村上 龍

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自分自身もあと少しで55歳に手が届くし、村上龍は好きな作家の一人なのですんなり手にした本です。

55歳を越え、人生の転機を迎えた普通の人々の「再出発」の物語が、
5つの中編として収められています。

読んでみて一番びっくりしたのは、私が今まで読んだ村上龍の作品とは、
全く異なったものだったということです。
「コインロッカーべイビース」「歌うクジラ」などは、
グロテスクで過激な表現と近未来的な時代設定が作品の特徴で、
その中から人間の心の底にあるものを、ぐいぐい引きずり出している感じです。
一方この作品に収められている5つの中編は、とても穏やかで生活感のあるものになっていました。
5編の作品すべてに共通しているのは、そこに生きる人達に対する慈しみの感覚です。

こんなの今までの村上龍の小説にあっただろうか?
作者自身も還暦であり、人間への焦点の当て方に大きな変化があると思いました。
「再出発」がキーワードになっていて、5編どれにも自分の感情を重ねることができました。


特に心に残ったのは「キャンピングカー」という作品です。
主人公は、早期退職して妻と二人で、キャンピングカーで日本中をあちこち旅行しようとプランしていた。
しかし以外にも妻や娘からそのプランを拒否されてしまう。
さらに簡単に考えていた再就職が思い通りにならず、心身に変調をきたしてしまう。
「うつ病」ではないと診断してくれた心療内科医から「妻との関係性の変化」が原因だと指摘される。
キャンピングカーのプランを拒否されたことではなく、
プランを拒否した妻には妻自身の大切な時間があることを受け入れたからだと言われる。
確かにキャンピングカーに象徴される男のプランの中には、自分の時間しか流れていない。
それとは別に流れている妻の時間とどう交差して行くかには、想いは至っていなかった。
私自身も含め男性の多くは、退職したら妻と2人で〇〇しようと考えている。
そこには、自分の周りにいる人たちの時間を意識はしていない。
これを受け入れようとして変調をきたすことは、将来自分にも起こりそうな気がします。


5編の最後はそれぞれの主人公が「再出発」のためにのささやかな決意があります。、
いや、決意というには大げさかもしれないが、
老いや貧しさパートナーとの人間関係の疲労などに取り囲まれながらも、
「どうやって生きていくか」を自分自身に問い、答えを見出そうとする瞬間がやってきます。

村上龍は、後書きで再出発にはそれまで誰とどんな信頼関係を築いてきたかが問われると書いています。
会社に勤めて築ける信頼関係はほとんど仕事がらみです。
役職の上下や先輩後輩といった関係性の中での信頼関係です。
私の多くの先輩が定年退職されていったが、その後の関係性は全くないのが当然のようになっています。
その時に、自分が持っている「信頼関係」は、ガラガラポンとDeleteされてしまうようですね。
残るのは家族との突き詰めれば妻との関係性ということになってしまうんだと痛感します。
会社での仕事に依存しない「信頼関係」の再構築を試みてみようかなあ。
仕事をしている自分ではなく”ただ”の自分と信頼関係が結んでもらえるだろうか?
仮に結べたならいつまでもその関係を保てるようにした。
それが将来の自分の精神安定剤になるような気がする。

おわり

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プロフィール

トホトホWALKER

Author:トホトホWALKER
性別 男性(家族有)

職業 サラリーマン
居住地 西日本の地方都市

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