『沈黙のひと』


2016年、4冊目です。
小池真理子という作家の作品を読んだのは初めてでした。
久しぶりに、ずっしりと心に応える作品を読んだという気持ちです。
自分と母を捨て、若い女と結婚し家庭を持った父親が、
難病であるパーキンソン病に侵され意志の伝達も難しくなって、
介護施設に入居してからの娘の父へ向き合う心情が描かれている。
老いて壊れていく父親の姿を見て悲嘆にくれたり、
過去を思い返し冷淡な感情に支配されることも無く、
父親の身勝手な娘への偏愛を冷静に受け止め、
それに対処する自分をまた冷静に見つめている気がする。
それは、幼い子供時代に父と過ごした満ち足りた気持ちにへの、
気を許すと落ちていくような速度で没してしまいそうな
自分の回帰を畏れているような気さえします。
この小説の中で描かれる父親は、別れた妻、再婚した現在の妻、
単身赴任時代に知り合った女性と3人の女性と愛し合うダンディーでカッコいい男性です。
一方で、介護ホームで息を引き取った後の遺品の中からは、
ポルノビデオや性具が出てきます。
パーキンソン病で体が自由に動かせなくなっていた父親が、
そのようなものを購入し所有していたことに、
娘は汚らわしさよりも、憐れみを感じていたように思えます。
設定では、この時の娘の年齢は50歳過ぎぐらいなので、
そういう諦観があるということかもしれません。
むしろそれが世間では一般的なのであるかのように描かれています。
そこには、父親に対する偶像視はありません。
それにより、実生活で物理的にも遠くなった父親に対する距離感を縮めているかのようです。

「沈黙のひと」とは、パーキンソン病の進行で、声を自由に出せず、
キーボードも打つことができなくなった父親のことです。

私も娘と何れこのような関係に身を置くのか?
沈思せねばならぬことだ。

吉川英治文学賞受賞作品です。

おわり

テーマ : 読んだ本の紹介
ジャンル : 本・雑誌

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